2023.08.14

【特別インタビュー】進取の気性があふれる職人同士の出会い

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 昭和25年創業。
創作和菓子で名高い北原堂製菓の本店が、2013年12月に完成した。

同社は、秦野市民に愛され続け、2017年に創業67周年を迎える。
地元産の素材を活かした数々のオリジナル商品の開発を手懸ける同社は、地元に根強いファンが多く、「北原堂のお菓子を食べて育った」秦野市民も数多い。アイ.創建の平原社長によれば、昭和の頃から、「丹沢蒸しどら」が鎮座した木目の浮かんだ菓子入れが、どの家庭でも見られたようだ。

2013年、そんな同社が、老朽化が進んだ本店社屋の建て替えに着手した。
完成後5年経った店舗併用住宅でもある本店を訪れ、建築当時の思い出を語っていただいた。

 

丹沢蒸しどら。落花生の甘露煮を餡に入れ、生地には黒糖を混ぜ蒸して仕上げている。落花生の風味が口いっぱいに広がり、どこか懐かしい味で秦野土産にもおすすめ。(神奈川県指定銘菓)

 

秦野味だより。落花生を甘く柔らかく煮たもの、栗を小豆きんとん餡に入れて茶きんしぼりに仕上げた一品。日持ちし、落花生風味の上品な味。

 

 

アイ.創建との出会い

--せっかくの定休日に、わざわざお時間を割いていただきまして大変恐縮です。本日は宜しくお願いします。さて今回、真っ先に聞きたかったのが、老舗の北原堂製菓さんが本店を建て替えるにあたり、なぜアイ.創建さんを選ばれたのか? 格調の高い建築物が得意な工務店や、店舗デザインが売りの会社に依頼された方が良かったのではないか? と率直に思いましたが。

--ははは。そんな(笑)。実は、アイ.創建さんには20年程前に、渋沢支店の建築工事をお願いしたことがあって、その時の技術の素晴らしさ、特に和室の出来栄えに感銘を受けて、将来本店を建て替える際にもお願いしようと、心に決めていたのです。

20年前の石田社長。当時暇さえあれば、渋沢支店の工事現場へ足繁く通っていた。分野は違うが、同じ職人として大工の仕事に興味があったのだ。質の良い木材を使って、目の前で丁寧にこしらえている作業をじっと見入る時もあった。
ある時、大工が現場に不在で自分ひとりの時に、完成後は隠れてしまう細かい所を、くまなく見て回った。すると何処も彼処も手抜きが無く、きれいな仕事ぶりだった。
その時に、店舗の内装も含めた一切を、アイ.創建にお願いしようと心に決めたのだった。

 

 

「親しみやすさ」がテーマだった店舗計画

--なるほど、アイ.創建さんにお願いした理由がよく分かりました。
ところで、本日お会いする前に、建物の外観を眺めながら感じたのが、清潔感のある白色をベースカラーとして、アクセントとして小豆色の看板、そして格子で表現した円弧。それらの組み合わせが、なんとも和菓子を想像させる佇まいで、これはどのような経緯でこうなったのか、とても興味を持った次第です。

--ははは、全てアイ.創建さんの提案ですよ。店や工場の使い勝手などについては細かい依頼をしましたが、その他は結構お任せだったので。外観デザインについてのやりとりは、全く覚えてないですね(笑)。お任せの方がいい結果になると思ってはいましたね。

設計担当の大塚氏が、どのような意図を持ってこのファサードのデザインに至ったかについては不明だ。しかし、親しみやすい建物に設計して欲しかった石田社長の希望は叶えられた様子で、馴染みのお客様からの評判も上々のようだ。
歴史ある店舗であり、かつ、地元の皆様から支えられてきた店舗でもあるため、周辺環境に溶け込んだ落ち着きのある印象も与えたかった。そのような意図を汲んでくれた設計担当者には、とても感謝している様だ。市民の暮らしに寄り添ってきた同社が大切にして来た心が、建物でも表現できた。

-柔らかい印象を受ける外観と同じく、店内もベージュが基調の落ち着いた雰囲気で、ゆっくりと買い物ができると好評の様ですね。

--ええ、口頭で「こんな感じでこんな雰囲気で」と伝えたところ、とても素敵な店舗になったと思います。

ぐるりと店内を見回すと、とても優しい印象を受ける。店舗入って正面の収納棚の扉さえも、その大きさにも係らず、慎ましい印象を受ける。和菓子をずらりと並べたショーケース自身も、菓子の引き立て役に徹している。

 

落ち着いた雰囲気の店内の様子。お客様にも好評の様だ。

 

周辺環境に溶け込んだ、北原堂製菓様の外観。

 

北原堂製菓のみなさん。

 

 

進取の気性があふれる者同士

そのショーケースの中には、珍しい素材を使った菓子がいくつかあった。どんな味なのか、興味をそそられる。

--試しにおひとつどうですか?

石田社長から手渡されたのは、ふくよかな薄紅藤色の大福餅。果物を包んでいるみたいだが苺ではない様だ。一口で頬張りたい気持ちを抑えて、半分だけかじってみた。すると、柔らかい餅を噛んだ矢先に、しっかりとした歯ごたえを感じた。さらに、爽やかな酸味とまろやかな餅が混ざりあった、思わずほころんでしまいそうな優しい味が口いっぱいに広がった。

--未だ試作段階ですが、ピオーネを試してみました。

なるほど、ピオーネの酸味と大福餅との相性は悪くない。芳醇な葡萄の酸味と甘み。何よりもピオーネの皮の歯ごたえが面白い。噛みしめる程にピオーネの真のある旨みがじわじわとにじみ出てくる。今日のような暑い夏の日にぴったりの、清涼感に溢れた逸品だ。
日々、新しい商品の開発に余念がない石田社長。北原堂製菓の真骨頂が垣間見えた。
アイ.創建にも、確固たる職人技術を土台に、新しい施工技術の開発に取り組んだ歴史がある。両者が自然に惹かれあったのが、納得できる。

 

ピオーネ大福。種無しぶどうのピオーネを丸ごと1粒贅沢に使っている。口にすると皮がはじけ、ジューシーな果汁が広がる、ぶどうのほのかな香りがする一品。

 

 

満足の出来栄えの工場

お菓子の創作の話題が尽きることが無い中、工場の出来栄えも気になった。石田社長に聞いてみた。

--実は、工場の機械は全て、建替え前に使っていたものなんです。だから、全ての機械をアイ.創建さんに採寸してもらい、設計図に落とし込んでもらいました。大変な作業だったと思います。

図面を改めて見れば、様々な機械や設備が所狭しと並んでいる様子が分かる。隙間はほとんどない。配置関係や機器の寸法に合わせた結果、柱割が一部不規則となっている。強い制約の中で、よくぞここまでまとめたと感心する。
更に、石田社長が付け加える。

--工場の使い勝手がとにかく良くて助かっています。更に、夏涼しくて冬は暖かい。特に冬場は、以前は足が冷えて辛かったけど、今は暖房さえ要らない。高齢の職人達が楽になったと喜んでいます。

恐らく、アイ.創建の建物は断熱・気密性能が高いからだろう。外壁が漆喰であるのも理由の一つかもしれない。同社の菓子製造を一手に担うこの工場の出来栄えに、石田社長はまんざらでもない様子だった。

 

機械設備の寸法を細かく書き込んだ図面。大工工事以外にも、電気設備、配管、仕上げなど機械設備に関わる工事は多いため、細心の注意を払った。

 

 

次の時代へ

最後に、店舗併用住宅を建てるにあたっての、成功の秘訣を聞いてみた。

--そうですね。何よりも店舗のイメージやコンセプトは、しっかりと準備しておいた方がいいですね。いざ設計の打ち合わせに入って、そこがぶれると、何時までたっても決まらないでしょうから。それを伝えたら、後は設計担当の方にお任せした方がいいと思います。あとは、店舗だけ専門の店舗屋に頼むのではなく、まとめて住宅会社へ頼んだ方がスムーズな気もします。

--住居エリアと店舗エリアとの関係について、配慮することはありますか?

--それぞれのエリアの中間にワンクッションあれば、落ち着きます。仕事場と住居が目と鼻の先というのは、やはり落ち着きません。

1階の図面を見ると、店舗エリアと住居エリアとの間に、備品を収める物置や休憩室などを配置している。これらがあることで、適度な距離を確保できている。

--初めは3階建てにせざるを得ないかなと思っていました。でも、限られた敷地にも関わらず、欲しい機能をコンパクトにまとめていただいた結果、2階建てで済んだ。おかげで、得した気分ですよ(笑)。

 

店内にさりげなく貼られた小学生たちの感謝の言葉。

 

店舗の壁に貼られた末広小学校の生徒さんたちの手紙。社会科見学のお礼だそうだ。小学生たちが市内の企業を一通り見学した後、もう一度行きたい会社を投票した結果、北原堂製菓だった。石田社長は、続けて2度も、生徒さんたちを招待したようだ。
この子供たちも、同社のお菓子を食べて育っているのだなと思うと、愉快な気分になった。これからも味に磨きをかけて、新しい時代を切り開き、地元の皆様に愛され続けてほしい。

家づくりSTORY(秦野北原堂製菓様)

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