2023.08.14

【特別インタビュー】理想を実現するプロセスを楽しむこと

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じりじりと太陽が焼け付く季節に小田原に来た。湘南から西湘へと至る相模湾沿いの海街の一つだ。S邸に着いた。漆喰の外壁や玄関脇のオリーブの木、テラコッタのタイルや鼠色にくすんだ枕木、それら全てがこの風土に馴染んでいる。見入ってしまって玄関ドアを開けられない。
完成から既に5年。建築当時の事を思い出してくれるだろうか。そんな不安がよぎりながらも建物や手入れが行き届いた庭をじっくりと眺めた。玄関ドアを開けたのは到着して5分。どんな室内なのか、ワクワクしてきた。

程よく色あせた無塗装の塀と漆喰の外壁が調和している。漆喰の外壁は調湿作用が高いのも特徴。

 

理想を実現すること

家づくりに着手する大分前から、微に入り細に渡ってS様の理想とする新居は完成していた。問題はそれが実現できるかどうかだった。お住まいを一通り拝見した直後にこのエピソードを聞いた。室内をぐるりと見渡しながら「成功したな」と察した。お話に淀みや迷いが無かったからだ。

興味が沸いたのはそのプロセス。ディティールを見れば、並々ならぬエネルギーが注がれたことが伺える。但し、施主の意欲と馬力が半端なくとも、施工者側が足並みを揃えなければ、実現することは断じて無い。

玄関入った真正面のイメージは、S様のこだわりを形にした。照明器具やニッチ、アイアンの手すりなど随所に個性が光る。

 

想定外の第一歩

アイ.創建との出会いは偶然。お気に入りの家具や雑貨に囲まれた暮らしを夢見ていたその頃、理想を適えてくれる会社は、たとえあったとしても相当高額なんだろうなと思っていた。そんな時、246号線沿いのカフェにふらりと入った。レジ脇にあったカード。住宅の外観写真に目を奪われた。近所のモデルハウスの案内だった。行こうかな、でも無理だろうな。逡巡の毎日が続く。それから半年。夫に背中を押され、思い切ってモデルハウスのドアを開けた。その瞬間、頭が真っ白になった。

パジャマ姿の「還暦前の男性」がそこに立っていた。

 

歯車が回り始める。

「いらっしゃいませ。ご見学されますか」と照れくさそうに笑うその男性、当時のアイ.創建社長・平原末蔵である。そこは自宅兼用のモデルハウスだった。家づくりのスタートが思いもよらない展開となる。しかし、戸惑いながらも、玄関から垣間見える空間が気になる。もっと見たいという気持ちが高まる。

暫くして、大工の社長一人には接客の荷が重いと踏んだらしき若い女性が、本社から駆け付けた。ようやく案内が始まった。一歩前に進んだ。「室内の空気が心地よい。」初めて実感する感覚。モデルハウスの次に見たのは、アイ.創建で建てたお客様の住まい。ここでも同じ感覚。漆喰の壁と無垢の床の、憧れていた暮らしが目の前にある。やっぱり好きだ。ここに依頼しようと決心した。

 

土地決めにあたっての予算オーバーの回避

それからのS様とアイ.創建との動きは早い。提携する不動産屋を巻き込み土地探しを開始。不動産屋は相場や近隣情報を調査した上での候補地のリストアップ。アイ.創建は候補の土地それぞれに対して、建築屋としての所見を伝えた。双方が極力客観的な視点で候補地に補足説明を加えた。そして、それと同時に建物の要望を伝える打ち合わせを開始。建物価格を大まかにイメージしながら土地と合わせた総額に目途が立った。念願の土地が決まった。「総額を固めたので、予算が理由で建物の仕様を諦める事が無かった。建物打ち合わせと土地探しを同時に進めたからできたんだと思います」と当時を振り返っておられた。

質実ながらも柔軟な仕事ぶりが活きる

土地が決まり本格的な設計が始まった。伝えたいことが山ほどある。それら細かい要望をアイ.創建は一つ一つこなしていく。「本当にこの方法でいいのか不安な時は、逆にアドバイスをくれたり、時には代替案を提示してくれたりと、難しいお願いをしっかりと受け止めてくれました。」そんな実例は枚挙にいとまがない。一つアイ.創建ならではのエピソードを次に紹介したい。

室内で一際目を引くリビング天井の深い茶色の梁。白い漆喰の室内の壁の中で、空間を引き締めるためにどうしても欲しかった茶色い梁。アイ.創建が探し当てたのは、京都の古い町家で使われていた丸太の梁。梁の長さや断面、仕口の位置や寸法などから、間口の狭い京町家の小屋梁の様である。材の選択、運搬、加工、現場での取り付け、材料が特殊であればあるほど手間が増えるが、何よりも目利きであることが必要条件。大工の矜持あればこその結果であろう。この住まいの醸す空気感から京都の要素は一切感じない。かつて都で、町家普請に仕えた小屋梁自身、西湘で第二の人生を送るとは思ってもみなかったであろう。

キッチン周りのレイアウトも、自身の使い勝手を最優先に計画した。床はアイ.創建が東奔西走し探し当てた、幅広のナラ材。天井に見えるのは京町家で使われていた古材。

 

こだわりをかたちに

注文住宅の家づくりでは、営業、設計、現場監督という機能がバトンタッチしながら仕事が進める。今回のS邸の様な細かい工事が多い場合、どうしても現場監督が現場で臨機応変に対応することが求められる。一例を挙げたい。

リビングと壁1枚で隔てた洗面コーナー。リビングから近いが視線は届かない。同時にトイレからも近くてとても機能的。絶妙の位置にある。S様はここに、自ら調達したステンドグラスを取り付けることに決めた。リビングからの柔らかい光を導くためである。ステンドグラスを取り付けるには、安全性や施工性に配慮してガラスの両側から細い材木(ヒモ)でサンドイッチして固定する。ただこのヒモの寸法や色を間違うと、一気に室内の雰囲気が壊れてしまう。画竜点睛を欠くと全てが台無しとなる。ここで活躍するのが現場監督。出来上がりを見れば、担当したベテランの平原良子が、迷いなくひょうひょうとやってのけたのが良く分かる。「細かい取り付け方までは私には分からないので、最後はプロのアドバイスに従って、結果うまくいったと記憶しています。」S様もそのステンドグラスの窓には満更でもない様子だった。

完全オリジナルの洗面化粧台。施主のセンスとアイ創建の丁寧な仕事ぶりがうかがえる。

 

住みこなすこと

思い出があふれる。親子孫の3代で棟上げの作業を朝から夕方まで見学した。手際の良い連係プレイに感服した。木組みが出来上がったのを見て、改めて実感が沸いた。完成直後に見た、当初思い描いた通りの真っ白なリビング。既に揃えていたお気に入りの家具や雑貨を、頭の中の映像に従い、一つづつ丁寧に置いた。夢が現実となった。満たされた気分を味わった。

それから約5年。幅広のナラ材の床は風合いが増し、新しい家族として加わった豆柴のひめちゃんが、元気に駆け回る。完成時にアイ.創建からもらった「お手入れセット」も使いこなし、天然素材といいお付き合いをしている。「住まいは買い替えが利かないもの。だからこそ建材、特に肌が触れる素材にはこだわるべき」とS様は微笑んだ。

すっかり話し込んでしまった。真夏の夕刻。まだ太陽が西の空に見えていた。外はまだ暑い。そういえば室内はそんなに暑くなかった。エアコンはついていなかった。同行した社長の平原氏によれば、漆喰壁の効果らしい。ナチュラルな暮らしがお好きなS様を住み心地でもサポートしているアイ.創建の家。

見た目だけではなく人への優しさがあるのだと、一人納得しながら帰途に就いた。

 

家づくりSTORY(小田原・S様)

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